『メリダとおそろしの森』の考察・その2 キルトについて

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ディズニー映画、メリダとおそろしの森。舞台はスコットランドです。キルトについて知っていなければ、作中では訳が分からないだろうと思う場面があります。その謎にお答えしましょう!

作中、熊になったエレノア王妃を追って、お城を駆け回り、三つ子ちゃん達によって塔のてっぺんで締め出しを食らってしまうファーガス王その他の場面。あそこから地面に降りていく時に、布を伝って降りてきますよね。

その布は何処から来たのか、そして何故、皆、下半身すっぽんぽんなのか、不思議に思ったことはないですか?その謎を解き明かしましょう。

 

それにはまず、服装について語りましょう。実は女性の服装はあまり気にしたことがないのでわからないのですが、男性の服装は世界中が知るとおり(と、思う)キルトです。キルトはタータンと呼ばれるチェック柄の巻きスカートです。用途などにもよりますが、布は7-8mくらい使います。材質はウールです。言わずもがな、かなり重い!!のです。

ファーガス王などを始め、映画に登場する男性が皆、身につけているもの。あれは昔の形のキルトです。

 

まずは現在のキルトの形状について。

簡単に言って、まず、着物の前身頃の様な感じの部分、エプロンと呼ばれていますがを、ベルトの穴に通し固定、そして布をお腹から、後ろそしてまた前へとぐるっと回して、最初のベルトとは反対側に付いているベルトで固定。

Kilt

現在のキルト。前から(左)後ろから(右)

この時、前身頃の部分は普通の状態ですが、後ろに回る部分は折りたたんで、プリーツ上になっています。このプリーツが非常に細かく、折り込む部分もかなり深いので7m+もの布が必要になるのです。旅行者用などの安物キルトはこのプリーツの目が荒く使っている布が圧倒的に少ないです。布の質もイマイチだし、日本の旅行者用の安いお着物と同じですね。

 

この、巻きスカート、元をたどれば、タダの一枚の長い布だったのです。このキルトの先祖は feilidh mor (フィル・モア)と呼ばれています。feilidhはスコットランド北部の特有の言語、ゲール語でWrap(ラップ、巻くという意味ですね)。Mor(地域によってはMhor)はBig、Great、つまり大きいという意味ですので、直訳は、大きい巻物となります。

それもそのはずで、この昔は、布が身の丈ほど、長さはやっぱり7-8mくらいあったのです。スカートな筈なのに、なんで身の丈もいるのと思うでしょ?それはスコットランドの気候や自然と関係した、昔の人の賢い知恵の産物です。

昔のキルトはこんな感じ

昔のキルトはこんな感じ

まず、このキルト、広げるとただの長い布です。これをクルクル、海苔巻きのように自分に巻きつけると、あら不思議、寝袋に早変わりです。これは便利ですね!わざわざ寝るために毛布などを運ぶ必要がないのです。

そして、次の朝、またクルクル、逆周りに回って、布をほどきます。これをどうかして身につけないといけません。この長い布をどうするか。。。折りたたんで、折りたたんで、折りたたんでしまえ!という事で、自分でプリーツを作っていきます。即席ですので、縫わずに折りたたんだキルトは、そのままベルトで自分に巻き付け固定します。

old kilt

こんな感じに両端は折らず、中心部分だけプリーツ状にします

さて、下半身は何とか、キルトらしくなったけど、上半身の部分の布の役目は?

この部分もちゃんと使うんです。

まず、そのまま、だらーーんと下に落とせば、ロングスカート状になります。これはアザミなどトゲのある植物が多い野山を歩く時に便利です。

そして、ご存じない方もいらっしゃるかと思いますが、スコットランドは雨が多いのです。雨が降ってきたら、どうするか?風が強いこの国で傘なんて使ってられません。このキルトの上部を頭から被ると、即席のレインコートです。

メリダとおそろしの森はその場面がありませんが、ブレイブハートと言う、メル ギブソン主演の映画を観ると、ウォリスとその友人が土砂降りの中を歩いている時に頭から布を被っています。あれが、即席レインコートの使い方・実写版です。ウールはある程度までは撥水しますからね。あそこまで土砂降りだと、怪しいですが。。。(笑)

普段の時は、片方の肩だけに布を集めで、下からもちょっと布を回して、でっかいブローチで止めます。(農作業をするときは、邪魔になるので、両方ベルトに突っ込んだりしますが)それが、この映画でも目にする feilidh mor の常の形です。

 

例の、映画の城の壁を降りてくる場面、皆の feilidh mor を使って、布を結んで繋ぎ、それを伝って降りて来たってことなんですね。脱いじゃったわけだから、下には何も履いてなくて当然と。。。

この布を幾通りにも使う所、誰かと似ていると思いませんが?そう、日本の忍者たちです。忍び袴も、広げると一枚の布になり、それを使って簡易テントなどを作りました。一つの道具を幾通りにも賢く使う、なんだか、不思議な共通点ですね。

 

もう一つ、スコットランドの服として特筆すべきこと、タータンについても触れておきましょう。作中、Clan、つまり氏族という言葉が出てきますが、この氏族ごとによってタータンの模様は違います。

映画の中に出てくる氏族は、メリダの一族、DunBroch。そして訪ねてくる氏族、, Clan Macintosh、 Clan MacGuffin と Clan Dingwall。DunBrochはスコットランドの地名ですが、歴史上の氏族ではないようです。MacintoshとDingwallは実在の氏族です。MacGuffinについてですが、McGuffin はスコットランドの南部に存在したようです。MacとMc、両方とも子のという意味です。つまりMcGuffinはGuffin一族の子の一族。ちなみにMacはスコットランド、Mcはアイルランドのスペルです。なので、日本でおなじみ、マクドナルドはMcDonaldという綴りなので、アイルランド撚りです。

話は逸れましたが、この氏族はそれぞれお揃いのタータンを身につけていたのに気が付きましたか?昔は、草木染なのでそれほど鮮やかな色ではありませんが、それぞれ模様が違います。今度、映画を観る時にチェックしてみてくださいね。

clan tartan

それぞれの氏族によってタータンが違います

スコットランドにはタータンのレジストリーという物があって、今も登録出来るのですが、さっき調べたらDunBrochのタータンも登録してありました。さすが、ディズニー!!!

Clan DunBroch

Clan DunBrochのタータン

タダのお子様用の映画だと思っていた、このディズニー映画、実は結構お勉強になりますね。考察、2回でまとめるつもりでしたが、ちょっと長くなりそうです。地元民としては色々と設定について思うところがあるのです。

 

過去の考察はこちらです。

『メリダとおそろしの森』の考察・その1